本記事は動画での解説のみとなります。
エクセルVBAで画像処理
画像処理ソフトとして広く知られているのはProcessingですが、実はエクセルを用いることによっても画像処理を行うことができます!
この方法につきましては、以下のYouTube動画で解説しました
本記事ではこの方法のエッセンスについて軽く解説します
画像処理のステップとしては
①グラフの描画
②VBAによる時間の進行処理と、これに伴うグラフの描画更新
の2つがあります。
さらに、①のグラフの描画を行うためには
(i) 座標の指定
(ii) 任意の関数の結果出力
(iii) 描画条件の設定
が必要となります。このうち(i)については、描画範囲となるセルに対し、例えば原点であれば”(0,0)”といった座標を記述し指定します。
(ii)と(iii)については、例えばsinカーブを得たい場合であれば、sin関数の出力結果に加え、その結果と座標の値を比較したうえでこれらの値が十分に一致するようであれば描画を適用する、といった仕組みを設定する必要があります。
これについてはセルの”条件付き書式設定”から行うことができます。
以下では、例としてsinカーブと円状の波形が時間発展していく様子をエクセルで描画しております。
1. sinカーブ

動画では詳しく触れませんでしたが、座標の指定をする際は”(x座標, y座標)”という形式で各セルに対応する座標を表示しておくことが重要です!このように一つのセルに対し、xとyの二つ分の情報を入れておけば、あとでMID関数とFIND関数を組み合わせることでx座標かy座標のそれぞれを選択的に得ることが出来ます。得られたどちらかの座標は再び描画用の計算に用いるという仕組みになります。(上画像中の関数のコピペはYoutube動画の概要欄からどうぞ)
2. 円状の波形

円状の波形の表示は上記の通りやや複雑な関数ですが、鍵となっているのはSEQUENCE関数です。
時間が増大すると、SEQUENCE関数の中の列数も増大するので、これに対応して円の数も増えるという仕組みです。
ファイル
本記事で紹介したエクセルファイルについては以下からダウンロード可能です。
マクロの有効化が必要となりますので、xlsm入りzipのダウンロードを推奨しますが、xlsxのダウンロードも可能としてありますので、この場合はマクロの設定を自らで行ってください。
エクセルによる画像処理:1. xlsm入りzipのダウンロード、2. xlsxのダウンロード
以上、読んでいただきありがとうございました。
【③解決策】可逆的架橋性材料のループ生成問題
⓪目次
③解決策
以上の①背景と②問題点にて、アントラセン架橋型ダブルネットワーク材料が抱えるループ生成問題について述べました。
GAINENZでは、当該問題に対する解決策を提示させていただきます。
光修復を達成しつつも材料内にループを生成させないような新しい架橋剤として、図10のようなDNA-アントラセン複合型架橋剤が利用可能です。
このアントラセンの一端にはDNAの一本鎖が連結されており、これをα鎖とすると、アントラセンのもう一端には相補鎖であるαC鎖が連結されているものとします。
通常、これら一本鎖同士の相互作用は絶たれていますが、外部刺激によってその相互作用を生じさせ、二重鎖を形成させることができるものとします。
このようなDNAをα鎖だけでなく、複数種類(β, γ, δ, …)用いることによって、元々結合していたアントラセン同士のペアを区別することが可能となります。

この原理の詳細については、図11に示した通りとなります。
初期状態ではα鎖とαC鎖、β鎖とβC鎖、γ鎖とγC鎖、…といった各DNAペアの結合したアントラセン二量体により、1stネットワークが架橋された状態となっています。このときpHは10より大きく、DNA同士の相互作用は絶たれています。
続いては応力の印可により、ネットワーク材料が引っ張られるとします。このときは従来通り、アントラセン二量体が開裂し、蛍光性のアントラセンを生じると期待されます。この状態で光照射されると近傍のアントラセン同士で二量体の形成が進み、やはりループを生成すると考えられます。
そこで元々のアントラセンペアを区別するために、DNAの相互作用を活用します。酸などによってpHを操作することで、DNA同士の相互作用をONにできます。すると、α鎖はαC鎖と、β鎖はβC鎖と、γ鎖はγC鎖と二重鎖を形成します。この時点ではアントラセンは開裂したままですが、元々のペア同士がかなり近い距離に位置することとなります。そこで光を照射し二量体形成を進めれば、近傍のアントラセン同士で二量化が進むため、元のアントラセン二量体が復活し、最後にDNA同士の相互作用を切ることによって完全な初期状態に戻ると予想されます。
以上が、アントラセン-DNA複合型架橋剤を用いたダブルネットワーク材料の修復メカニズムとなります。
DNAが何種類必要かの予測は難しいですが、これは本研究における根源的な問いに相当します。

では、DNAとアントラセンを組み合わせた研究自体については、どのようなものが知られているのでしょうか?
実現可能性を判定する上でも、これを調べておく必要がありますね。
まず、重要な先行研究としては図12上の研究が挙げられます。
この研究では、アントラセンの結合した2種のDNA一本鎖を、予め他のDNAテンプレートと二重鎖形成させておくと、二量化反応が進行することを証明しています(反対に、変異を取り入れることで二重鎖形成させなかった場合には二量化が進行しません)。
また、その後の研究ではアントラセンがDNA鎖の末端に位置している場合でも本手法が有効となることや、三重鎖DNAにも適用可能であることが証明されています(図12下)。
以上から、本提案のDNA-アントラセン複合型架橋剤を用いれば、DNAの相互作用を介することによって元々のアントラセンペアを再結合させることが容易になるわけです。

また、DNAを活用したポリマーの架橋方法については従来より、図13に示す6通りが知られています。
それぞれを列挙すると、1. 塩基対の形成(非共有結合の利用)、2. ライゲーション(共有結合の利用)、3. DNA間の架橋、4. モノマーへのDNA修飾および重合、5. ポリマーのDNAによる架橋、6. ナノ粒子や生体高分子へのDNA修飾、となります。
本提案の架橋法7が最も類似するのは5の手法となりますが、本提案ではDNAの利用を一時的に限定することによってアントラセンの機能を補助できるため、DNA利用法の位置付けとしては完全に新規であることが分かります。

続いては、DNAによる架橋法をゲル材料に適用した例をご紹介します。
主には、DNA架橋を①DNゲルの形成に活用した例と、②ゲルの自己集合に活用した例が知られています(図14) 。

①の例では、[1]DNAリンカーとカルボキシメチルセルロース(CMC)、[2]Y型DNAとククルビットウリル(CB)をそれぞれ含む[1], [2]の溶液を混合させます(図15) 。
するとDNAリンカーはY型DNAと、CMCはCBと選択的に結合するため、同じ溶液内で2種のネットワークが形成され、結果的にダブルネットワーク材料がone-potで生成します。

得られたDNゲルは非共有結合によって形成されているため、タフでありながらも高周波においては溶液的な挙動を示します(図16a) 。
また本ゲルの分解性についても調査されており、DNAを切断するヌクレアーゼとセルロースを切断するセルラーゼを添加することによって分解できることが明らかとなっています(図16b) 。

最後に、②のゲルの巨視的自己集合について、その概要を図17に示します。
図の例では立方体型ゲルが2種類ありますが、各表面にはアジド基が付与されており、クリック反応を介して、アルキン付きのDNA鎖をゲルに修飾することができます。
ここで、それぞれのゲルに対して修飾するDNAが相補的な塩基配列をもつように設計しておくと、ゲル同士がDNA同士の結合を通して巨視的に集合することができます。

この相補的な相互作用は選択性が高いため、異なるDNAの修飾されたゲルが4ペアあるような場合であっても、設計通りに自己集合させられることが示されています(図18) 。
したがって、以上①・②の結果は、本提案の主軸となるDNA同士の相互作用が、ゲル中・ゲル表面環境であっても高い選択性で進行することを支持しています。

本提案のまとめを図19に示します。
本提案は1stネットワークの架橋において、DNA-アントラセン複合型架橋剤を利用するというアイデアでした。
この構造は力が加わると開裂を起こし、生じたアントラセンに基づくメカノフルオロクロミック特性を示すと期待されます。
ここで本構造に対し、従来通りに光照射を行ってしまうとループが生成され、修復サイクルごとに機械特性が低下すると予測されます。
一方、DNA同士の相互作用をONにすれば元々のアントラセンペアを近傍に位置させることができ、光によって近傍のアントラセン同士を選択的に再結合させることができます。
これによって元のアントラセンペア、ならびに初期のネットワーク構造を再生できます。
したがって、本提案のメカニズムを用いるとループの生成を抑制でき、高い回復率を伴った材料の光修復が可能となるわけです。
DNA架橋 × DNゲル × 光修復 × メカノクロミック特性という重要なテクノロジーを有効に組み合わせることで、ループの生成に関する基礎科学的な知見を与えつつも、高い相乗効果を伴った材料高機能化を実現させることができます。

④Reference
[1] J. P. Gong et al. Adv. Mater. 2003, 15, 1155. [2] M. Shibayama et al. Macromolecules 2006, 39, 14, 4641. [3] Suo, Z. et al. Nature 2012, 489, 133. [4] Weng, W. et al. Chem. Sci. 2019, 10, 8367. [5] Patrickios, C. S. et al. Gels, 2019, 5, 36. [6] Jyo, A. et al. J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 29, 8880. [7] Jyo, A. et al. Org. Biomol. Chem. 2009, 7, 1349. [8] Liu, D. et al. Adv. Mater. 2015, 27, 3298. [9] Yokobayashi, Y. et al. J. Am. Chem. Soc. 2022, 144, 5, 2149.【②問題点】可逆的架橋性材料のループ生成問題
⓪目次
②問題点
優れた硬さ、優れた靭性を誇るダブルネットワーク材料ですが、実は問題点があります。
それは「引張を繰り返しているうちに材料が不可逆的に弱くなっていく」という問題です。
これは1stネットワークとして用いられている共有結合が、一回目の引張によって不可逆的に開裂するためです(図5左)。
二回目の引張時には応力を発揮できる共有結合が存在しないため、S-S curveは図5右のように変化し、全体的に低い応力が示されます。

上述した問題を解決するためには、開裂したあとでも何度も再生できるような非共有結合を1stネットワークとして活用すればよい、という発想が生まれてきます。
例えば、糖類とカルシウムイオン間のイオン結合がこれにあたります(図6左)。
この研究は2012年にNatureに発表されたものですが、時代が進むにつれてこの1stネットワークはますます高機能化され、2019年時点では図6右のようなアントラセン二量体ユニットがChem. Sci.誌に報告されています。

この二量体は共有結合性のものですが、開裂によって生じるアントラセンは光照射によって二量体に戻るため、光による選択的な材料修復が可能です(図7) 。
加えて、引張によって生じたアントラセンは365 nmの光を吸収して発光するという、メカノフルオロクロミック特性も有しています。
この機構により、材料内に力が加わった部分だけを選択的に可視化させることができます。
このように、本アントラセン二量体ユニットを1stネットワークとして活用したことで、メカノ特性を伴ったタフネスの向上や材料の光修復性といった高機能化が実現されています。

本材料の詳細な性質については、図8の通りです(これらは実際のデータではなく、単なる模倣図になります)。
図8aは応力印可前後の発光強度(印可前: I0, 印可後: I)を表しており、シングルネットワークの場合には強度に大きな違いが見られない一方で、トリプルネットワークの場合には劇的な発光強度差を生じていることが確認できます。
これは、トリプルネットワーク化することによって1stネットワークであるアントラセン二量体ユニットに力がかかりやすくなったことを示しています(ダブルネットワークでなくトリプルネットワークを用いる理由は、非電解質ポリマーを母材として用いている以上、ダブルネットワーク化するのみでは1stネットワークの伸長具合が不足し、性能も落ちるためです)。
図8bは伸長時の往路・復路に対応する応力を示しており、引張前の応力は必ず引張後の応力を上回っていることが確認できます。
この挙動は1stネットワークの不可逆的な開裂に由来しており、通常のダブルネットワーク材料に典型的な変化です。
図8cは一回目の引張挙動と二回目の引張挙動をS-S curveで比較したものですが、二回目の引張前には光照射が行われています。
未照射であれば二回目の引張時における往路は、一回目の復路と同一になるはずですが、光照射が行われたことで応力が部分的に回復していることが確認できます。
これは光照射によってアントラセン同士が二量化し、1stネットワークの結合が回復したためです。
図8dは引張・修復サイクルと発光強度比(I / I0)の関係性を示したものであり、引張後においてはアントラセンに由来する発光強度が高くなることを示しています。
ここで着目したいのが、サイクルを繰り返すうちに引張後の発光強度比が低下する一方、光照射を伴った光修復後においては発光強度比が維持されていることです。
つまり、光修復後の発光強度比が初期のままであるということは、光二量化自体は完全に進行していることを意味しています。
これにも関わらず、引張後の発光強度比、すなわちアントラセン単量体の生成量はサイクルごとに低下していくのです。
光二量化が完全に進行しているなら、二回目の引張であっても一回目と同等の応力が示されると期待できますが、図8cよりやはり光修復が完全なものでないことを確認できます。
これらのデータは、光修復を繰り返すうちにループの量が増大していることを意味します。
※ループ…単一高分子鎖の分子内架橋によって形成された環状部分。弾性には寄与しない。

ループとその増大機構については図9の通りとなります。
図9Aは、アントラセン二量体を緑の六角形で表しており、図全体としてはネットワークの初期状態を示します。
力が加わると、この二量体は開裂し、蛍光発光性のアントラセンを多数生じます(図9B) 。
さらに光照射を行うことで材料の修復を試みると、図9Cのようにアントラセンの二量化が進行します。
ここで図8dのデータに基づくと二量化は完全に進行しますが、初期状態である図9Aと修復後の図9Cを見比べてみると、その違いが明らかとなります。
すなわち、図9Cには分子内架橋であるループが生成しており、ネットワークが完全な回復には至っていないことが確認できます。
このため、続いて力が加わってもループ部分は1stネットワークとして機能できず、発光強度は1サイクル目のような増大を示しません(図9D) 。
したがって光による修復を行っても、本材料は完全に回復できず、部分的にしか回復しないことが分かります。
この問題の根源には、どのようなペアであってもアントラセン同士なら二量化を起こしてしまうという性質が関わっています。
開裂によって生じたアントラセンが、元々結合していたアントラセンを区別できるように、アントラセンのペアを特異的な相互作用によって結び付けることが本問題の解決につながると考えられます。
