【科学】 機械学習 を用いた3DP造形物における欠陥構造の分類

今回は3Dプリンターによる金属の印刷と 機械学習 についてのお話です

通常用いられる金属の3Dプリント方法は、Laser powder bed fusion (L-PBF)といって、金属の粉末をレーザーで焼結させます

この方法が完璧なものであれば、造形物として得られる金属構造は均一であり、どのような欠陥ももたないはずです

しかしながら、現実にはそうはいきません

実際には、造形物として得られる金属構造の中には空隙があるなど、構造的な欠陥が含まれます

このような欠陥があると、得られる構造は想定よりも弱いものとなってしまいますから、欠陥は少ないほどよいとされています

そこで、従来は3Dプリントの際のパラメータを感覚的に頑張って調整することでしか、その欠陥の数を制御できませんでした

例えば、レーザーの強度を調節するなどといった方法です

といっても、レーザーの強度は小さすぎても大きすぎても欠陥の数は増えますので、こういったパラメータの調整は難しいのです

理想的には、「どうすれば欠陥の数を最小限にできるか」の指針が分かったらいいですよね

これを達成するための方法が、今回の論文で示されています

それは「欠陥の種類を明らかにする」ということです

欠陥の種類とは

一口に欠陥といっても、その構造にはいろいろと種類があるわけです

具体的には、3種類あります

それらは、Lack of fusions (LoF)、Keyholes (KH)、Gas-entrapped pores (GEP)と呼ばれています

それぞれ、溶接が不十分なため生じる欠陥、金属の蒸発により生じる欠陥、気体が囚われることで生じる欠陥、となっています

気体はどうしても存在するものなので、GEPの形成を抑制することはできませんが、他の2つの欠陥の生成を抑制することはできます

LoFは溶接が不十分なときに生じるものなので、レーザー強度を上げれば、その形成を抑制できます

一方、KHは過度な加熱によって生じるものなので、レーザー強度を下げれば、その形成を抑制できます

すなわち、3DP造形物内にある欠陥がLoFとKHのどれであるかを判別することができれば、レーザー強度をどうすべきかが分かるということになります!

機械学習 による欠陥の判別

どうやって欠陥を判別するのかを明らかにしたのが、今回の研究です!

その方法とは、欠陥の形状に関わるパラメータに着目して分類することになります

具体的には、欠陥の”大きさ”や”丸さ”といったパラメータです(論文中では他にも7つのパラメータを取り上げていますが、本記事ではこの2つに絞ります)

実は、上述した3種類の欠陥は、その生成機構が異なるために、生まれた時の大きさや丸さも異なるのです

これを視覚的に示しますと、図aのようになります

欠陥の種類とその分類法

図aより、LoFは横に長い形、KHは大きい丸みのある形、GEPは小さい丸みのある形とわかります

こういった材料内にある欠陥の形状はX線で調べることが可能で、図bのような分布になります

図bの上の分布からは、LoFは様々なサイズのものがある一方、GEPのサイズは小さく、KHのサイズは大きいことが確認できます

図bの下の分布からは、LoFの丸みは小さく、言い換えれば角ばっている一方、GEPとKHの丸みは大きく、言い換えれば球に近い形状をとっていることが確認できます

このことから、図cのような決定木を作製できます

決定木とは、パラメータの大小関係によって、ある特徴量をもつものが何に分類されるのかを決める機械学習の手法です

この決定木の一段階目では、①サイズが小さいものはGEPかLoFである一方、②サイズが大きいものはLoFかKHであると分類できます

さらに二段階目では丸みに着目することで、①のグループの中でも角ばっているものはLoF、丸いものはGEPと分類できます

加えて、②のグループの中でも角ばっているものはLoFであり、丸いものはKHと分類できるのです

実際には他にも7つのパラメータがありますから、それらを全て考慮した上で、ある欠陥がどれに分類されるかを決めるのです

結果的に、LoFとKHのどちらかが含まれるかを明らかにすることができれば、たくさん実験せずとも、3Dプリントの際のパラメータを最適化できそうですね

3Dプリントされた金属が何よりも最強になる日も近いかもしれません!

以上、Nature Communicationに出版された最新論文でした

参考

Poudel, A., Yasin, M.S., Ye, J. et al. Feature-based volumetric defect classification in metal additive manufacturing. Nat Commun 13, 6369 (2022). https://doi.org/10.1038/s41467-022-34122-x

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