分子模型は3Dプリントで組み立てよう

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分子模型、組み立ててますか?

不斉反応の開発など、分子の立体が鍵となる系を扱う研究者の方などは、分子模型を組み立てる機会があるかもしれません

例えば、S体のBINOLが基質に結合するとどのような遷移状態になりそうかを調べるには、模型を組み立ててみるほうがイメージしやすくなるでしょう

すると次は、分子の大きさがどれくらいまでなら、模型の組み立てが現実的なのか?という問題に直面します

一例になりますが、皆さんは以下のような分子でも、1から模型を組み立てますか?

画像1. 24-Porphyrin Nanoringの構造式.

なんとも見た目のインパクトが凄まじい分子ですね

頑張って分子模型を組み立てようにも、そもそも模型のパーツが足りないとか、その購入費用がとんでもないことになるとか、いろいろな問題を生じそうです

極論のように見えますが、これは実際に合成されている分子です![1]

ですので、このような分子模型が必要になること自体は現実にありえるわけです

特に、この分子の中央部分を占めるゲストの大きさは、外側の環状ホストの大きさに適合していないといけませんから、分子模型を用いた大きさの議論は非常に重要なものとなります

そこで、これからの時代の分子模型の組み立て法として、3Dプリントの活用事例を紹介いたします

通常、分子模型の作製に使われるCPKモデル(詳細は後述)はお値段が30万~70万円と非常に高いのですが、この3Dプリントであればレジン費用だけで安く済ませることができます

分子模型の3Dモデリング・3Dプリントに関する流れ

3Dモデリング

まずは分子の3Dモデルを作成しましょう

分子の3D表現にはBall and Stick modelやWireframe modelなどいろいろありますが、今回はvan der Waals modelに頼っていきます

このモデルはCPKモデルや空間重点モデルとも呼ばれ、分子の大きさを最も現実的に反映させたものとなります

図1の構造を、このCPKモデルで表したものは以下のようになります

画像2. 24-Porphyrin NanoringのCPKモデル(手動による構造最適化のみ).

もはや宗教性すら感じられる、とても美しい見た目です(この記事の読者が集合体恐怖症ではないことを祈ります)

このような分子モデルの作製にあたっては、通常はChemdrawで描画した構造(図1)をChem3D・Avogadroに順にインポートし、それぞれの段階で.molファイル・.wrlファイルへ変換することが望ましいです

しかし執筆者のPCでは、この化合物の構造をChem3D上に描画できなかったので、パーツを構造的に分割してからBlender上へ取り込み、そこで3Dモデルを再構成しております

具体的には、①ホストのポルフィリン部分、②ゲストの中央ベンゼンからレゾルシン骨格に至る軸部分、③ゲストの酸素原子からピリジンまでの先端部分という3分割になります

それぞれに対しては、さらに①24個分の複製・二面角の調節・環化、②複製・60°回転操作を6セット、これにより得られる6分岐構造の複製・30°回転、③24個分の複製・酸素原子の位置合わせ・酸素原子からZn原子までの方向調節を行うことで、分子全体の見た目をそれっぽく見せております

すなわちこの3D分子モデルの構築は、手による分子模型の組み立てと同じくらい自由に行えているわけです

PCのスペック次第では、DFT計算による分子構造の最適化を行ってから3Dモデルを出力できますので、状況に応じた臨機応変な模型構築が行えます

(構造式から分子の3Dモデルを作成しBlender上で表示する際の詳細手順については、こちらの記事をご参照ください)

3Dプリント

分子モデルが完成したら、あとは3Dプリントするのみです

いつものように、Blenderで3Dファイルを.stlファイルへ変換し、スライシングを行いましょう

3Dプリント終了時の風景は以下の通りです

画像3. 2通りのレジンによる24-Porphyrin Nanoringの3Dプリント風景.

今回は2通りのレジンで3Dプリントを行ってみました

一つはNova 3Dで、もう一つはF39というレジンになります

Nova 3Dは固まると弾性の乏しい硬い樹脂に変化しますが、F39はなんとゴム状の3D造形物を出力できます

ですので、サポート材の形成はやや困難になりますが(画像3右)、分子模型などのやや柔軟性が求められる造形物の形成に向いています

最後に、得られた造形物を3Dモデルと比較してみましょう(画像4)

ホスト-ゲスト間のサイズ差に余裕がないため、ホスト内部にゲストを完全に収納することは困難でしたが、3Dモデルの見た目とよく対応する印刷物が得られたことが確認できます

DFT計算どころかMM計算も用いておらず、拡縮なども行っていないありのままのモデルの割には、よくできているのではないでしょうか

3Dデータさえ構築してしまえば、残りの模型生成を3Dプリンターが自動で行ってくれるという点も、ストレスフリーにつながります

画像4. 分子の3Dモデルと3D印刷物の比較.

分子模型の3Dモデリング・3Dプリントについては以上となります

複雑な分子を設計している研究者の方は、ぜひ模型の3Dプリントにチャレンジしてみましょう

参考文献

[1] Gotfredsen, H.; Anderson, H. L. et al. Nature Chemistry 2022, 14, 1436–1442.

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